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インタビュー

今回のインタビューは自由が丘で美容室NoVを経営する美容師の森川英展さんです。きっかけは、僕の友人が「プレゼンの重要性を主張している美容師がいる」と教えてくれたこと。美容師とプレゼン…。ふつう両者は結び付かないものでしょう。けれど僕はプレゼンは職種にかかわりなく必要な力だと思っているので、同志をみつけた気分になり、森川さんの美容室にお伺いしてお話を聞いてきました。

最初の質問は、美容師にプレゼンが必要なのはなぜなのか?です。

髪型が変わる以上の体験を

color bottle森川:僕は、美容師というのはお客さんに対して「髪型が変わる」以上の満足感や体験を提供すべきだと思うんです。髪を切るだけなら格安美容室の1,000円で済んでしまいますが、ウチのお店では8,000円(※)いただいています。ということは7000円分の付加価値をつけなくてはいけない。そのために大切なのは、お客さんに合わせたストーリーを提示することだと思っています。
( ※ 森川さんがカットする場合。他のスタッフの場合は6,000円)

どういうことかというと、美容師とお客様の関係は一度きりでは終わりませんよね。だからウチのお店では、お客様の長期的なビジョンとか、お客様が求めていることなどをプレゼン手法を使ってカウンセリングをするようにしています。

例えば、プレゼンには「つかみ」があります。ウチでは「オーラソーマ」というカラーボトルがそれにあたります。これは、どの色のボトルを選ぶかによって、選んだ人の深層心理がわかるという心理分析ツールです。ウチでは髪を切る前に、まずオーラソーマを使ってお客様の求めるものを心理的に分析し、お客様とお話するようにしています。

森川さんのお話を伺っていて、僕は「ユーザー・エクスペリエンス(顧客体験)」という概念を思い出しました。これは、企業は単一の商品やサービスを提供するだけでは不十分で、お客さんの体験全体を設計すべし!という考え方です。スターバックスが、コーヒーという単一商品ではなく、家庭でも職場でもない「第三の場所という体験」を提供しているのはその一例でしょうか。

ワクワク感の演出はプレゼンで決まる

顧客体験への注目は高まっていますが、心理分析を導入してまでその向上につとめる美容院は多くはないはず。森川さんが顧客体験を大切にするルーツはどこにあるのでしょうか?

morikwa森川:お客さんとのコミュニケーションを重視するのは、僕が美容師になろうと思ったスタート地点が他の美容師と異なるからだと思います。美容師というのはデザインもするし接客もする。デザイナーでありながらサービス業でもある。この仕事には、創造性やデザイン性に加えホスピタリティという要素が含まれ、それぞれがコンテンツとして成立しえると僕は思っています。そして各コンテンツをもっと発展させれば、美容師は美容師の仕事だけでなくもっと幅広い仕事が出来るようになるという考えがありました。

この商売はつくってナンボの世界で、髪を切る前に、お客さんにワクワクしてもらえるかが大事です。美容室に来るのは、美しく変わりたい、美しさを維持したいという人です。そんなお客さんの期待を良い意味で裏切るワクワク感をどう演出するかはプレゼンテーションで決まると思っています。

森川さんは、ワクワク感の演出において声の果たす役割も大きいといい、発声や早口言葉の練習をスタッフにさせていると言います。また身なりをいつも小奇麗にしておくも非日常感を演出するためには大切と言います。

やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて…

さて、森川さんは「髪型が変わる以上の体験」をお客様に提供するため、スタッフのプレゼン力を底上げし、森川さん自身のプレゼン力を磨くべくこんな活動をしています。

森川:スタッフのプレゼン力を伸ばすために、毎月、トレーニング日を設けています。まず、トレーニング日の一ヶ月前に、僕がそのスタッフが得意とするものを見つけてプレゼンのテーマに設定します。例えば「笑顔」とか「ヘアカラー」とか。トレーニングでは、スタッフはスライドを使って15分間のプレゼンをすることになっています。

僕は外部の技術講習セミナーに講師として招かれることがよくあります。髪を実際に切って見せる前に、まずスライドを使って「考え方」をプレゼンするのがよくあるパターンです。
セミナーでプレゼンするときは、事前にウチのスタッフ相手にプレゼンの練習をするようにしていますね。まず僕がプレゼンし、スタッフから感想を言ってもらう。指摘されたポイントを直して再度スタッフの前でプレゼンをする。そしてもう一度感想をもらい…と。ま、このサイクルはキリがないので、二回繰り返して終わりにしていますが。

セミナーの現場もスタッフに見せて、部下が出来ないことをやってみせています。「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて…」という格言がありますが、その感覚です。

こんな活動を続けているとスタッフは会話をしやすくなるようです。会話の中で、言いたいことが最初に出てくるようになります。 発声とか早口言葉も練習するので、嫌がるスタッフもいたのですけど、ま、そこはもう渦に巻き込んでしまいました(笑)

独立計画を進めるため、よくプレゼンしてました

森川さんとお話をしていて気づくのは「ジェスチャーが自然なこと」です。森川さんにその点を伝えると、理由の一つは、独立開業にいたる経緯にあるのかもしれないと、次の話をしてくれました。

geture森川:僕は、美容師としてのキャリアを雇われ人として始めましたが、最初に「10年で独立する」という目標を立てました。ただ美容師は給料がよくはないので(独立のための)お金はそんなに貯まらないんですよ。

そんな状況で独立計画を進めるために周囲の人によくプレゼンをしていましたね。自分の親族とか、スポンサーになってくれそうな人に対して。プレゼンといっても紙に書いて見せるわけではないですが、自分の作品とか、自分の考えとか、自分の独立計画を常に話しておく。そうすると「こうしたほうがヨイ」とかアドバイスを貰えるのです。 僕は体育会系なので、当初は、ずっと手を膝に置いて話していたのですけど、ある人からゼスチャーを交えて話したほうがよいとアドバイスされたことがありましたね。

独立は10年計画だったのですけど、7年半でその目標は達成できました。

独立前も、独立後も自分の考えを相手に伝える手法を研究してきた森川さん。最後にプレゼンがうまくなるためのアドバイスをもらいました。

森川:プレゼンが上手くなるには回数を重ねることが絶対に必要ですね。あとは同じ事を何回もしゃべること。そうすると割愛できる点が分かってきてポイントに絞って喋れるようになるんですよね。

2shot今回のインタビューで最も印象に残ったのは、独立開業という目標を立てた森川さんが、周囲の人に対して何度もプレゼンを繰り返していたという話です。 プレゼンとは、広義で言えば、自分の考えで相手を動かそうとすることです。「喫茶店で先輩と話す」「実家で父親と話す」場面もプレゼンになりえるわけです。自分の考えで相手を動かすことが出来る場面は、生活の各所に存在していることに改めて気が付きました。

また「同じ事を何度もしゃべる」のは見習いたい点です。同じ事を何度もしゃべるとプレゼンター自身が飽きてくるので練習は1回のみになりがちです。でも、プレゼンは聴衆の貴重な時間を奪うものなので、プレゼンターは最善の準備をし、最高の経験を聴衆に届けるべきですよね。プレゼンター自身の時間も無限ではないことは承知の上ですが「同じ事を何度もしゃべる」ことはもっと行われてよい練習だと思いました。

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